光を“面”で見せる
-面発光ドアトリム開発への挑戦
2026年に国内発売されたLEXUS新型ES。
そのドアトリムには、トヨタ紡織が手がけた「面発光イルミネーション」が採用されています。
表面素材や透過技術を活用し、大面積で均一な発光を可能にした新構造のドアトリムです。音楽やシーンと連動した多彩なアニメーションで室内を演出し、より快適な空間を提供します。
この面発光加飾には、トヨタ紡織として初となる技術が数多く盛り込まれています。
世界的にも前例のない大きな発光面積を実現したこの面発光加飾には、どのような課題があり、どのような工夫があったのか。担当者に話を聞きました。
- ※林テレンプ株式会社および小島プレス工業株式会社と共同開発となります。
- ※LEXUS新型ES においては、version L、Rr Comfort packageに標準設定となります。
お話を伺ったメンバー
ドアトリム設計部 田原 宏泰さん
これまで照明部品全般に携わる。
今回はプロジェクト全体の統括を担当。
ドアトリム設計部 竹澤 昌倫さん
複数車種のドアトリム設計に携わったのち、先行開発も担当。
今回は、イルミネーション設計としては初めてのプロジェクトとなり、面発光イルミネーションの構造設計を担当。
ドアトリム設計部 鈴木 隆平さん
複数車種のイルミネーション・ランプの電子回路・基板設計に携わる。
今回は基板設計と電子部品を担当。
ドアトリム設計部 西村 良さん
複数車種のドアトリム設計を歴任し、先代ESのドアトリム設計にも携わる。
今回はドアトリムASSY全体の設計を担当。
ドアトリム設計部 高木 芳友さん
今回が入社後初めてのプロジェクト。
ドアトリムASSY全体の設計サポートを担当。
ソフトウェアファースト推進部 宇佐美 亮佑さん
シートヒーターのECU、オーバーヘッドコンソールなどの電子部品に携わる。
今回はイルミネーションの基板に搭載されるソフトウェアを担当。
- ※ASSY:Assembly(組立品)の略。複数の部品を組み付けた状態のものを指す。
- ※ECU:Electronic Control Unit(電子制御ユニット)の略。
光を“面”で見せる挑戦のはじまり
今回の面発光ドアトリムの取り組みは、どのようなきっかけで始まったのでしょうか?
田原:
もともと車両メーカーから、面を大きく光らせるような“面発光”へのニーズがありました。
その要望に対して、どのような光源や構造で実現するかを、トヨタ紡織として追求していったのが今回の開発です。
トヨタ紡織が目指す車室空間づくりにどう関係しているのでしょうか?
田原:
今回の開発は、トヨタ紡織が目指す「インテリアスペースクリエイター」として、車室内の光・音・熱を連動させながら車室空間を演出していく取り組みの一環となったと思っています。
西村:
高級感を表現する手段の一つとして、面発光という選択肢がありました。
また、光を透かして見せるフィルムを使い、サステナブルを感じさせる竹の柄の表現も取り入れています。
単に光らせるだけではなく、意匠としてどう見せるかまで含めた開発でした。
広く、美しく、狙い通りに光らせるために
今回の面発光ドアトリムには、どのような特徴がありますか?
鈴木:
LEDを多数配置して制御し、面発光のように見せるのは、トヨタ紡織として初めての試みでした。
LEDの配置に加え、光の向きや広がりを制御することで、面発光の見え方を成立させています。
これまで1~2個程度だったLEDに対して、今回は40個以上を使用しています。
田原:
また、RGB LED(赤・緑・青の光を組み合わせて多色表現ができるLED)を多灯で採用したのも今回が初めてでした。
これまでトヨタ紡織が携わった製品の中でも、多灯による発光演出(表現)そのものは、これまでもありました。
ただ、今回大きいのは、従来の白色単色LEDではなく、RGB LEDを使うことで多色表現が可能になったことです。
竹澤:
ここまで広い面積を光らせるのも初めてでした。
通常はライン状の表現が多いため、面としてどう成立させるか、より均一に発光させるにはどうすればよいかを考えるのは、大きなチャレンジでした。
開発を進める中で、特に難しかったのはどのような点でしたか?
西村:
1回目の量産試作の開始直前、実車の衝突試験でイルミネーションの加飾面の意匠部に割れが発生し、乗員への危害性の観点から認証への影響が懸念され、対策が必要になったことです。
車両認証に間に合うよう、対策検討と効果確認を進めていきました。
田原:
イルミネーションの加飾面が大きくなると、車両評価(側突など)への影響度がこれまで以上に上がることは分かっていました。
西村:
車両レベルで見れば、CAEシミュレーション(コンピュータ上で製品の強度や変形などを解析・シミュレーションする技術)の信頼性はかなり高く、今回も事前検討の中で活用していました。
ただ、今回の加飾面の割れは、予想外でした。
大きな面を使う加飾だからこそ、衝突時にどう割れるかの検討が重要なテーマになりました。
高木:
形状をどう調整して割れないようにするかを考えたり、解析結果を反映した試作品を自分たちでも実際に削って調整したり、何度も作って検証したりと、地道な積み重ねでした。
竹澤:
本当にたくさん検証しましたよね。
西村:
最終的には、衝突でドアトリムが変形していく中で、最初に応力が集中する部位をあえて弱体化し、意匠面外の構造体のみが割れるような対策を行いました。
また、ドアトリム単体での再現試験や、認証前の実車試験も実施し、検証を重ねています。
構造だけでなく、制御や通信の面ではどのような課題がありましたか?
宇佐美:
それぞれのLEDは単独で光るのではなく、イルミネーション用のECUから指示を出して制御しています。
例えば、リラックスモードであれば、そのモードに適した形で40個以上のLEDに細かな光り方の指示を高速で送り続ける必要があります。
一般的な車両通信では、CAN(Controller Area Network)通信という方式で十分な場面も多いのですが、今回の面発光の仕様では、求められるデータ量や応答性に対して制約があることが分かりました。
そこで関係各所と、どの通信方式が適しているかを議論しながら、たどり着いたのがMeLiBu®(Melexis Light Bus)通信という方法でした。
これによって、一つひとつのLEDに細かな光り方の指示ができるようになっています。
鈴木:
また、発光の遅れや、狙った色とずれたり、この加飾面を通して見ると色が違って見えたりすることもありました。
例えば、LED自体は青を出しているのに、外から見ると少し違う色に見えてしまう、といったことです。
加飾面のフィルムとの兼ね合いで発色が変わるため、想定している64色すべてを一つひとつチューニングしていきました。
さらに、開発終盤にも大きな課題があったと伺いました。どのような状況だったのでしょうか?
竹澤:
量産試作のタイミングで、イルミネーションの一部だけが強く光ってしまう不具合が発生しました。
認証も終わっており、形状変更もできない状況だったので、時間がない、多くの不具合が出る、改善方法が分からない、という三重苦のような状況でした。
その状況で、社内の知見者を集めたレビュー会を行ったのですが、そこで良いアイデアが出てきました。
具体的には、薄い不織布の材料を面発光の裏側に1枚追加する方法です。
そもそもイルミネーションの一部が強く光ってしまうメカニズムは、加飾オーナメントと導光板が、直接接触することで空気層がなくなり、光が漏れてしまうというものでした。
そこで、その基布を追加し、加飾オーナメントと導光板の間に空気層を保てるようにしたところ、光の漏れを抑えられることが分かりました。
今回の基布は、その空気層を維持する役割を果たしており、結果として不具合の改善につながりました。
生産工程への影響も懸念されていましたが、この対策によって回避できた点は大きな成果でした。
竹澤:
正直に言うと、今回のレビュー会を開く前はかなりネガティブな気持ちでした。
当事者である自分が考え抜いてもなかなか対策が浮かばないのに、他の方から本当に良いアイデアが出るのだろうか、という気持ちもありましたし、このために皆さんを集めることにも少し後ろめたさがありました。
ただ、実際にやってみると、さまざまな意見が出てきて本当に助けられましたし、改めて良い文化だと感じました。
こうした開発を進める中で、社内外の関係者との連携で印象に残っていることはありますか?
宇佐美:
構造内に基板部品があるのですが、この部品の設計・開発を担っていただいたのは中国のメーカーでした。
やり取りを進める中で、言語や文化の違いに加え、私たちにとっても初めての部品だったこともあり、共通理解を得るのは簡単ではありませんでした。
そのため、中国の技術者の方にトヨタ紡織のグローバル研修センターへ来ていただき、まずは1週間ほど集中的なワークショップを行い、どういう仕様なのか、どういうプロセスでものづくりをしたいのか、といったことを何度も共有しながら理解を深めていきました。
その後も何度か同様の機会を設けましたが、もちろん私たち自身が学ばせていただくことも多くあり、有意義な時間になったと思います。
竹澤:
今回は初めての試みも多かったので、その分、さまざまな協業先との検討も多くありました。
ただ、このプロジェクトに関わる人たちが、「もっといいクルマをつくろう」という思いで一つになり、開発を進められていたと思います。
各関係者がそれぞれの立場で必死に知恵を絞って解決策を模索し、対策が決まれば、それぞれの立場で迅速かつ適切に対応へ移っていたことが印象に残っています。
面発光から広がる車室空間の可能性
今回の開発を通じて、面発光にはどのような可能性があると感じましたか?
竹澤:
すでに改良版の検討も進めており、入光構造を改良して輝度を向上させる案も検討しています。
こうした技術をトヨタ紡織のコア技術として確立し、お客様や社会により良いものを提供できるよう、貢献していきたいです。
田原:
面発光は見栄えへの影響が大きく、全体としてのバランスが非常に重要だと感じました。
感性に訴える要素が強いので、誇張しすぎてもよくないし、逆に控えめすぎても成立しません。
西村:
いろいろなサンプルを持ち込んで比較しながら進めましたよね。
田原:
車室空間を演出していくうえで、表現の調整そのものが重要だと改めて感じています。
今後は、感性評価をこれまで以上に重視していく必要があると思います。
今回、私たちが主導したわけではありませんが、輝度を決めるタイミングでモニター調査も行っていました。
さまざまな感性からの意見を聞く機会は、とても大切だと感じました。
今回のプロジェクトを通じて、今後につながる気づきや学びはありましたか?
高木:
入社する前は、PC作業でデータとして入れたものがそのままドアになって出てくるようなイメージを持っていましたが、実際はまったくそうではありませんでした。
現地現物で確かめながら良いものをつくっていくことの大切さを学べましたし、次の仕事でも生かせる経験になったと思います。
宇佐美:
これまでの部品よりも制御面での難易度が高く、これまで参入できていなかった領域に踏み込むことができました。
トヨタ紡織が「インテリアスペースクリエイター」へ成長していくための、大きな一歩になったと感じています。
竹澤:
品質の良し悪しを決める大きなポイントは、細部にまで気を配り、仕上げ切れているかどうかだと思いました。
そのわずかな差が、人の感じ方に大きく影響し得ることを改めて認識しました。
今後もこのことを肝に銘じて、開発に携わっていきたいです。
光を“面”で見せるという挑戦は、単なる加飾表現の進化にとどまりません。
感性に寄り添いながら車室空間を形づくる、その新たな可能性を切り拓く技術と情熱がこの開発には詰まっています。