技術開発

「インテリアスペースクリエイター」を考える ― 社員座談会

「インテリアスペースクリエイター」を考える ― 社員座談会

左から

  • 内外装先行開発部 部長高橋 吾朗さん 内外装部品の先行開発、照明部品設計をする部署の
    マネジメントを担当
  • TBAシリコンバレーイノベーションハブEnoch Morishimaさん デザイナー、協業相手を探す職務も担う
  • シート部品開発部 主任髙木 佳哉さん カーボンニュートラルに向けたシートの企画/開発を担当
  • 車室空間企画開発部向 里菜さん MX221の企画/開発を担当

トヨタ紡織は、2030年に「インテリアスペースクリエイター」になることを目指し、日々業務に取り組んでいます。当社が目指すインテリアスペースクリエイターとは何か、現場で働く4人の社員が語り合いました。

2030年。
この世界は、どうなっている?

自動車業界は今、100年に一度の大変革期を迎えています。CASEやMaaSといった新しい技術・サービスの実現に向けてこれまでにない大きな変化が起きています。他にもデジタルトランスフォーメーションの進展、再生可能エネルギーの普及など、自動車以外の分野でも社会課題の解決に向けた対応が急務となっています。当社が「インテリアスペースクリエイター」を目指す2030年はどんな社会になっているのか、それぞれが考える未来を語ってもらいました。

高 木2030年は、CASEやMaaSの観点から見ると、変化が大きく表れるのは限られた場所だけではないかと思っています。例えば、トヨタ自動車が推進するウーブン・シティなどのスマートシティ。そういった地域内では自動運転バスなどが一般化しているのではないかと思います。

人々のライフスタイルが大きく変化し、価値観は多様化するのではないでしょうか。今よりももっと社会・環境に配慮したモノやサービスが求められると推測します。
モノを「所有」する価値はだんだんと薄れて、「体験」の価値が重視されるようになると思います。2030年になればテクノロジーやAIがさらに進化して「コネクティッド」が当たり前の世の中になり、今までにない商品やサービスが登場しているだろうと思います。

イーノック私は人口動態の変化の面から、社会の価値観が変わると思います。2030年までには、Z世代は労働人口の約30%を占めると言われています。例えば、彼らは自分たちで車を所有するよりも、シェアライドなどを好む傾向にあります。Z世代の価値観は、人と車の結びつきの在り方を左右し、自動車業界全体に大きな変化が起きると思います。

髙 橋明確にこんな世界になるとは言い切ることはできませんが、両極端の可能性を想定しています。
CASE・MaaSの領域で画期的にイノベーションが起きる可能性もあれば、今とそれほど変わらない可能性もある。大きなイノベーションが起きるとするならば、その機会を逃さないよう、私たちは敏感にアンテナを立てておかないといけません。これから起こり得ることをいかに早く察知して、それを開発につなげていくかを考えることが重要だと思います。
一方で、やはりネガティブな状態も想定しておかないといけないと思います。例えば昨今の新型コロナウイルス感染症の拡大など、ここまでのパンデミックが起こることは予測できませんでしたし、当然それに対する構えもできていませんでした。他にも、地球温暖化や環境汚染、少子高齢化などの社会問題、大型台風や豪雨、地震といった大規模災害など、当社だけで対応できることばかりではないかもしれませんが、当社に何ができるか考えておく必要があります。

インテリアスペースクリエイターとは何か?

当社グループは2019年の東京モーターショーで、移動空間の新しい価値を生み出すインテリアスペースクリエイターを目指すと明言しました。今回は「それぞれの立場で考えるインテリアスペースクリエイターとは」、さらにその実現のために「今、自分ができることは何か」を聞きました。

髙 橋自動車だけではなく鉄道・航空機、それから住居や病院施設など、あらゆる空間に対し、快適で人を幸せにできる内装・機能を提供できるのがインテリアスペースクリエイターであると考えています。こと自動車では、車室内全部品の企画から開発、デザイン、設計、製造を、お客さまの要望に合わせたあらゆる開発形態で柔軟に対応できる。かつ良品廉価であることが条件だと思います。さらに、空間を構成する内装部品などの「ハード」を提供するだけではなく、例えば人を快適にするシステム制御などの「ソフト」も含め、トータルに提案できるようになるべきだと思います。

人々から共感される、そんな新しい価値を空間全体で生み出すことができるのが、インテリアスペースクリエイターだと思います。空間を利用することで暮らし自体がよくなったり、体験を通じて心が豊かになったり、つまり人々のQOL向上に貢献できるような価値を提供できればと思っています。MOOX※1やMX※2シリーズは、そうしたインテリアスペースクリエイターを体現した事例です。
私はMX221の企画を担当しましたが、車室空間全体の提案にこだわって、提供価値とそれを実現する具体的な機能やソリューションを考えました。学生の方に、MX221や当社がインテリアスペースクリエイターを目指していることを紹介する機会があったのですが、車室内全体をトータルコーディネートする仕事に興味を持ってもらえました。その後のアンケートでもポジティブな回答がたくさんあり、当社の将来性を感じ、興味がわいた、好感度が上がったといった声を聞き、とてもうれしく思いました。シートや内装といった単品ではなく、空間という単位で捉え提案する活動は、ユーザーに価値を提供するだけでなく、トヨタ紡織の将来にもつながると考えています。

イーノックインテリア空間を広い視野で考えることは、当社にとって非常に重要だと思います。私はシリコンバレーにあるトヨタ紡織アメリカのデザイナーとしてただ一人、MX221の開発に携わりました。コンセプト設計から車室空間のデザインまで、米国と日本で連携を取りながら車全体について討議しました。全体のコンセプトがまとまった後、私はシートのデザインを担当し、日本の開発チームは私が描いた内装をカタチにしてくれました。MX221は米国と日本が一致団結して取り組んだ、とても有意義なプロジェクトでした。私たちは自動車だけでなく、鉄道、航空機、住宅、そしてあらゆる空間の内装を潜在的な事業機会としてとらえて、対応していくべきだと思います。

高 木私がトヨタ紡織に入社した頃、空間提案はあまり意識していませんでした。でも、「内装をつくっている会社なんだから、インテリアのコンセプトや空間の提案ができるはず」と言われた言葉が腹落ちして、最近ではCASEやMaaSが進展していく中で、空間提案という当社が担う役割が本当に大きくなっているのを感じます。

  • ※1 MOBILEとBOXを合わせ、移動時間を自在に活用できる個室を意味する造語。さまざまなサービスでの空間活用を想定した自動運転コンセプト車両
  • ※2 Mobility eXperienceの略。自動運転レベル3・4を想定した車室空間モデル

MaaSシェアライド空間コンセプト「MX221」

MaaSシェアライド空間コンセプト MX221

2030 年以降の自動運転レベル4を想定し、「Diversatility」をコンセプトテーマに、都市部でのシェアモビリティーの車室空間を提案。
多様な移動ニーズや利用シーンに合わせたシートレイアウトや内装アイテムの変更が可能。
MX221をはじめとする当社の移動空間の新価値創造の取り組みの詳細は、当社のイノベーションサイトをご覧ください。
https://tech.toyota-boshoku.com/

  • ※ VersatilityとDiversityを合わせた造語。多様なユーザーに合わせて可変性をもつ空間

目指す姿の実現に向けて、今後重要なことは?

インテリアスペースクリエイターを目指すにあたって、それぞれが持つ目標や課題認識、自身の担うべき役割について聞きました。

高 木カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーといった環境への対応は、避けては通れないと思います。私は今、シート製造時のCO2排出量低減に関する業務に携わっています。カーボンニュートラルを実現するためには、サプライチェーンを含めたライフサイクル全体のCO2排出量を把握することが重要です。CO2排出量を算出するところから始めて、排出量が多い工程で、どんな工夫ができるのかを検討しています。

髙 橋米国でフロントヘッダーがなくサンバイザーだけでできているルーフなど、私たちではまず考えないような発想で設計されている自動車を見ました。例えば今、私たちが新しい意匠を設計する時、デザインを考えるのではなく、まず法規制をクリアするためにはどうするかを考えてしまいます。こうした固定概念に基づく発想では、今までの枠にとらわれた意匠にしかなりません。
その点、スタートアップ企業の柔軟な発想には本当に驚かされます。新しいものを生み出すには、これまでの経験や常識をいったん全部取っ払って考えないといけないと痛感しています。

イーノック脅威となるようなベンチャー企業は、必ずしも自動車の専門家ではありませんが、自分たちが何をしたいかについては強いビジョンを持っています。従来のやり方にこだわらないからこそ、自動車に限らずシリコンバレーのテクノロジー企業から新しいものが続々と生まれるのだと思います。
私たちは、自動車分野では長い歴史と豊富な経験がありますが、例えばデジタル分野やヘルスケア分野の専門家ではありません。専門外の分野ではオープンイノベーションを通じて他社から学ぶことが必要です。

MX221では、企画の段階からトヨタグループ5社に参加してもらい、MX221の真の価値は何かを考えました。「自社の事業や製品は関係なくアイデアを出してください」と言って議論を開始し、いろんなアイデアを実際の機能やソリューションにまで落とし込んでいきました。もちろんコンセプトをまとめる時は苦労しましたが、多様な意見を通じて新しい気づきが生まれ、多くの学びを得ることができました。

髙 橋社員一人ひとりが、外部とのオープンイノベーションなどから新たな知見や経験を得て、発想のジャンプアップ、技術のジャンプアップを行うことで、インテリアスペースクリエイターの実現に近づいていくと思います。

米国と日本をつないで始まった座談会は1時間半におよび、活発な議論が取り交わされました。参加した社員たちは、今後もそれぞれの立場からインテリアスペースクリエイターの実現に向けた挑戦を続けていきます。

関連コンテンツ

もっと見る