技術開発

月の力が食料危機を救う ―― 起潮力同調栽培

人口増加による食料不足の危機

世界人口は2050年には97億人に達すると予想されています。これにともない、食料の需要量も増加するため、2050年に向けて70%の食料増産が必要です。ところが、収穫面積は横ばいの見通し。このままでは、世界は食料不足の危機に直面してしまいます。

私たちは研究を通し「起潮力」が動植物の成長促進に関わることを発見しました。この力を効率的な食料生産に生かすことができれば、食料不足の危機を解決できるかもしれません。

ケナフの成長法則から、起潮力に注目

起潮力とは、月や太陽の引力と地球の遠心力によって生じる力のことです。潮の満ち引きなどはこの起潮力による地球上の重力変化によって起きています。この起潮力と植物の成長の関係性を発見するヒントになったのは、一年草植物「ケナフ」です。

私たちはかねてから、自動車ドアの内装パネルなどの製品に、成長の過程でCO2の吸収能力が高いケナフの繊維を使用しています。繊維強度の強いケナフを補強材として使うことで軽量化を実現し、自動車走行時のCO2排出量の削減にも貢献しています。

製品の量産には原料のケナフ繊維が大量に必要になります。ケナフを効率的に生育するためにはどうしたらよいのか。私たちの研究はその疑問から始まりました。ケナフの詳細はこちら

ケナフの繊維は年輪のように増えていきます。その増えるタイミングは2週間に1回程度。また、成長スピードの早いケナフの3時間ごとの伸び率を計測すると、右肩上がりで一定に伸びていくのではなく、伸びるタイミングと伸びないタイミングがあることがわかりました。

自然界で2週間に1度のリズムというと、月の満ち欠けと同じではないかと思い当たりました。そして、伸びるタイミングというのは干潮から満潮に向かうとき。とりわけ、そのタイミングが夜に重なるとさらによく伸びるようなのです。

人口増加による食料不足の危機
人口増加による食料不足の危機

起潮力の活用で、植物や動物が短時間で成長

起潮力が働く時間と、光の当たらない時間が重なるとき、植物がよく成長する。この発見は他の植物にも関わるのでは、と考えた私たちは、栽培技術として活用できるかどうか確かめるために実験を始めました。

光の当て方を屋外でコントロールするのは難しいため、ターゲットとしたのは閉鎖型の植物工場。国内で多く生産されているレタスを用いて起潮力の影響を調べました。起潮力の変化に合わせ光照射時刻を制御した結果、通常栽培に比べ、収穫時の重量が約20%増加することがわかりました。

現在は、この効果が実際の植物工場でも得られるのかを確かめる実証実験を行っています。まずは2025年をめどに、この栽培技術を実用化することを目標としています。

また、植物だけでなく動物の成育にも起潮力を生かせる可能性が見えてきました。スッポンを対象に行った実験では、起潮力が働くタイミングで給餌すると、平均体重が増加する傾向があることがわかりました。これにより、飼育期間の短縮や飼料削減が見込めると考えています。

起潮力が動植物に与える影響

起潮力の活用で植物や動物が短時間で成長

食料問題の解決を目指して

たとえば寒さが厳しい地域や、水不足に苦しむ乾燥地帯など、農業に適さない気候であっても植物工場であれば食料生産が可能になります。起潮力を活用すればその生産効率をさらに上げることもできます。収穫量が20%高まる技術であれば、製造時のエネルギーを20%減らせる技術であり、商品価値を20%高める技術ということもできます。生産に必要な電力は太陽光や風力をはじめとした再生可能エネルギーから得ることで、サステナブルな食料生産を可能にします。

再生可能エネルギーと植物工場の技術、そして植物のポテンシャルを引き出す起潮力という自然の力を組み合わせて、より低コスト・省エネルギーな栽培方法を開発していくこと。さらにはこの技術で世界の食料問題の解決に貢献することが私たちの目標です。

先端技術開発への取り組みはこちら
社会課題の解決に挑むビジネスパーソンを紹介するWEBメディア「Perspectives」に掲載されました

食料問題の解決を目指して

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