技術開発

「モデルベース開発」で未来のモビリティ社会を創出

自動車の進化はハードウェアからソフトウェアへ

自動車の中に組み込まれるシステムは、より多く、より複雑になってきています。
代表的なものには、GPSや障害物を感知して自動でブレーキをかけるシステムなどがありますが、実は窓の開閉やパワースライドドアなど、車内の電気部品のほとんどは内部にプログラムが組み込まれています。自動車に使われるプログラムのコード行数は、2010年には多くて1,000万行でしたが、2015年には1億行、2020年には2倍の2億行になっており、今後も増えていくと言われています。これまでハード中心だった自動車の改良に、ソフトウェアの開発も求められるようになっているのです。
トヨタ紡織グループのシートシステム開発では、組み込みシステムの急速な高度化・複雑化の潮流に合わせて、ハードウェアと制御システムを同時に協力して開発する「モデルベース開発」を進めています。

従来の開発の課題

まず、開発の基本的なプロセスについて説明します。
シートシステム開発においては、V字プロセスと呼ばれる工程を踏んでいます。V字プロセスは下のような図で表され、左側が開発工程を、右側がテスト工程をそれぞれ表します。最初に、どのような製品を目指すか、ゴール(要件)を綿密に決めます。そうして決めた要件を実現する仕様書を作成し、仕様書をもとにソフトウェアの設計を行います。実際にプログラムを作成したら、そのソフトウェアが正しく機能するか、またそれは仕様書で想定されていた動きなのかをテストします。最後に、ハードウェアに実装し、最初に決めた要件に合致しているかを確認します。このように、テスト工程は各開発工程に対応する形で設定されており、実施するテストの内容と範囲が明確になるようになっています。このプロセス図がVの字に見えることから、V字プロセスと呼ばれています。

V字プロセス

V字プロセス

一見、明確なゴールのもとで、各段階の進捗が整理された開発モデルのようですが、自動車開発においてシステム開発が大きなウェイトを占めるようになってから、2つの課題が浮上してきました。

1つは、開発に時間がかかるということです。これまでの自動車の開発はハードウェアの改良が中心で、システムは最後のハードウェア実証で確認されるものでした。この実証を経てから再度ハードウェアに手を加えるため、やり直しの手間がかかりました。

2つ目は、仕様書の内容を正確にプログラムするのが難しいということです。
仕様書はプログラム的な観点からではなく、通常の文章で書かれていました。「スイッチを押すとシートが後方に倒れ」という仕様書と、「スイッチを押すとスライドドアが閉じる」という仕様書があったとき、人間なら「シートはスイッチを押している間だけ動いていてほしく、逆にスライドドアは1回押すだけで閉じるまで動き続けてほしい」ものだとわかります。しかし、これをコンピューターが理解できる形、つまりプログラム言語に落とし込むときは、作動の開始と停止はどこなのか、動く速さはどのくらいかなどが曖昧なままになっていると、受け手によって解釈が異なり、その結果、思った通りの挙動にならないことがあります。

モデルベース開発のメリット

モデルベース開発では、ハードウェアとソフトウェアを同時に開発します。
まず、要件から仕様書を作成する時点で、プログラム言語に落とし込みやすい書き方に標準化し、設計と開発の認識の齟齬が少ない状態で開発を始めることができます。そうしてプログラムしたソフトウェアを、コンピューター上で3Dモデルなどを駆使してシミュレートすることで、実際のハードウェアがなくても、制御を細かく作り込むことが可能になります。また、シミュレーションでは再現できない、座ってみたときの感じ方(足が窮屈そう、リクライニング時に背ずれしそうなど)も、仮シートで体感して検証することができ、精度の高い検証を短期間で行うことが可能になりました。
さらに、プロジェクト管理の中では、設計のつながりや変更の影響分析を自動生成し、一元管理できるツールを導入しました。手作業で管理していたタスクの進捗を自動化したことで、タイムリーに進捗が更新され、プロジェクトの遅れや不具合の発生箇所を簡単に洗い出せるようになりました 。

モデリングツールの導入

モデリングツールの導入

要求管理ツールの導入

要求管理ツールの導入

A-SPICE能力レベル3取得、さらに高品質なものづくりをめざす

ソフトウェア開発プロセスの改善は、最終的に安全で高品質な製品をお客様にお届けすることにつながるものです。車載ソフトウェアの品質確保をめざし、国際的なフレームワーク「A-SPICE」が定められおり、A-SPICEは、ヨーロッパの主要な自動車メーカーも、車載ソフトウェアのサプライヤー選定基準にしています。「プロセス属性」という評価基準をもとに、有資格評価者による厳格な審査・判断がなされます。その結果は6段階で評価され、トヨタ紡織は能力レベル3を取得しています。レベル3は、プロセスが確立され、成熟した活用レベルにあることを示しています。
シートシステム開発において、シート単体の角度や高さ、温度などを制御することは、今や当たり前の機能になっています。これからの快適な車室空間の実現には、リラックス、エンターテインメントなど、単なる移動以上の価値を提供していくことが欠かせません。ドライバーが完全に運転操作から解放される「自動運転レベル4」を実現した社会では、車室での過ごし方にもさらなる快適さが求められます。例えば、1列目と2列目のシート移動が連動するシステムなどを、最高級クラスの車種以外にも当たり前に搭載されるものにしていきたいと考えています。これからも私たちは、自動車のシステム開発の可能性を広げていくことを目指します。

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