リアルハプティクス技術を活用した自動縫製装置開発
人材不足解決に向けて「職人の技」をデジタル化!
近年、あらゆるものがデジタル化、機械化されている生産現場。そのなかでも、熟練の職人による手作業は重要とされてきました。
そういった職人の技による仕事は、共有や継承が途切れると、品質の低下につながります。さらに、労働人口の減少、働き方の多様化が進んでいくなかで、「その人にしかできない」仕事があることは、生産力低下のリスクがあります。そこでトヨタ紡織では、誰もが職人の技術を扱えるようにする取り組みを始めました。
今回は、その取り組みの1つであるリアルハプティクス技術(以下、RH技術と略称)を利用した自動縫製を紹介します。
人の感覚を双方向に伝達するRH技術
RH技術とは、人が機械を操作して現実の物体に触れた際の力や動きをデータ化し、リアルタイムで双方向に伝送することで、感覚を再現することができる「慶應義塾大学ハプティクス研究センター」の技術です。さらに慶應義塾大学発のスタートアップである、モーションリブ株式会社との協業でそのデータベース化を行うことで、“カンコツ(熟練の技術)”を視える化・蓄積を行っています。
シートの縫製作業は、本革、ファブリックの硬さやスラブ※の厚みなどを、人間が快適と感じるよう絶妙なバランスで調整する必要があるため、熟練した作業者の手の感覚がこれまで必要不可欠なものとされてきました。そこで、自動縫製装置にRH技術を取り入れることで、動作や感覚を記録し、再現することができるようになると考え、縫製ハンドの開発を行いました。
- ※ シートの表皮とウレタンパッドの間にはさみ込むクッション材のこと
縫製ハンドの仕組み
まず、作業者の指の動きを遠隔でミシン側に伝える装置(操作ハンド)を使用し、遠隔操作で動作ハンドを動かします。動作ハンドには作業者の動作が記録されるだけでなく、革の硬さや厚みの感覚、ミシンが表皮を引く力や革からの反発の感覚が瞬時にデータ化されます。データ化された感覚は、作業者の手にフィードバックされるため、作業者も実際に縫っているかのように、表皮を引っ張ったり、逆に押し込んだりする動作を感覚的に行えるようになります。作業者の感覚と動作が双方向に伝送、記録されることで、機械が自動で縫製したり、遠隔地から高度な縫製作業を行うことが可能な技術となります。
これまでの取り組み 『原理モデルを製作』

実用化を目指して
このRH技術を活用した縫製装置を、2024年2月にトヨタ紡織猿投工場に設置しました。今後も生産効率性など改善を続け、縫製以外の分野での展開も目指します。