起潮力栽培と植物工場とのコラボレーション
食料不足を「起潮力」で解決
2050年には世界人口が97億人に達すると予測されるなか、異常気象の常態化や生産者人口の減少等により深刻な食料不足に直面すると想定されます。トヨタ紡織では、月と太陽と地球が生み出す「起潮力」に着目し、起潮力と生き物の関わりを探る研究を行ってきました。
この研究を通して私たちは「起潮力」が動植物の成長促進に関わることを知り、これを植物工場や陸上養殖の生産効率の向上に生かす取り組みができないかと模索し、植物工場や陸上養殖とのコラボレーションに現在取り組んでいます。
健康野菜と起潮力栽培のコラボレーション
コラボレーション事例として、高品質なプレミアム野菜・果物の栽培技術を生み出し、栽培プラントを製品化する事業を行っている(株)恵葉&菜(けいはんな)健康野菜 とトヨタ紡織は共同開発契約を締結(2023年~)しています。
健康野菜技術と起潮力栽培技術の組み合わせ効果により、健康野菜の価値を損なうことなく生産性を高め、(株)恵葉&菜健康野菜のキャッチフレーズである「身体の内側からキレイになる」を社会に届けることを目指しています。


(株)恵葉&菜健康野菜の技術で生産されたレタス「Premium恵葉&菜」を対象に、栽培施設で繰り返し試験を行った結果、これまでの栽培方法に比べて平均14%の重量アップを確認することができました。
平均重量比較 10回試験分

また、ORAC値(抗酸化能の指標)ならびに硝酸塩含量を計測したところ、いずれも従来法と同等であり、健康野菜の価値を損なわないことが分かっています。成長速度上昇により規定重量に早く到達することで栽培期間の短縮にもつながることから、生産性向上が期待できます。
ORAC値の比較

現在、(株)恵葉&菜健康野菜の技術を採用している生産者である、(株)新井組の協力のもと生産現場での試験も行っています。
起潮力を応用した倍速栽培法への挑戦
(株)恵葉&菜健康野菜との連携とは別の方向性でも取り組みを進めています。
植物工場では太陽光の代わりに人工光を使い、栽培室は一定温度に保たれています。これにより、年間を通して安定した生産が可能となりますが、照明や空調に多くの電力を要するため、電力消費の抑制と並行して栽培効率の最大化が求められます。
そこで、トヨタ紡織では、栽培期間の大幅な短縮を目指しグリーンテックアンドラボ(株)と開発を行っています。これは一般的な照明に青色光を追加し、これを起潮力の変化に合わせて制御するという新たな試みになります。
現在は数株程度/日の店産店消型となっていますが、今後は100株程度/日の生産ラインで試行するなどのスケールアップ検証を行うとともに、最高効率の栽培技術の確立を目指していきます。

新しいブランド化へ
2018年から農業系展示会の出展を通して起潮力研究や実証試験に協力いただける企業や生産者、研究者の方を求めてきました。
自然と生き物の関わりを紐解く研究であり、私たちだけでできることには限りがあります。おかげさまで多くの方々と繋がることができ、社会実装や原理解明に向けて少しずつ進んでいます。本稿では紹介していませんが、成長促進だけなく鮮度持続効果がみられ、また、陸上養殖でもスッポンやウナギの成長促進など効果が確認できています。当研究は、自然と生き物の関わりを学び、これを食料生産に生かすこと、そして食料にかぎらず、安心安全な豊かな暮らしに貢献することを目的としています。
今後も想いや方向性を共有できる様々な企業とのコラボレーションを模索し、「トヨタ紡織の起潮力」が一つのブランドとして確立できるよう、研究を継続していきます。